放浪症候群 2010. 12
12月25日 (土)  消える灯り


クリスマスで賑わう街の片隅で
今夜1つの命が消えた。

32年の間、地元に根ざした飲み屋がその灯を落とした。


店の亭主は還暦間近の女性。
もともとはご主人と一緒に営んでいた店だった。

しかしご主人が脳梗塞で倒れ車椅子の生活になり、
ご主人を介護しながら店を続けていた。

自身も体を患い、一時期は薬の副作用で頭髪がなくなった。
それでも店を守り続けた。


そんな彼女が店を畳もうと決めた理由は
材料の仕込から始めたら半日仕事を毎日続ける生活に
そろそろピリオドを打とうと考えたからだった。
1人で店を営むことは他人が想像するより体にこたえるのだ、と話してくれた。


「閉店する前に必ず行きますね」


と約束しながらも仕事に追われ
顔を出すことができなかった。
そうしているうちに、ついに最後の日を迎えることになってしまった。

なんとか夕方に仕事を終え店に向かうと、
夜8時過ぎだというのに既にのれんは仕舞われていた。

戸を開くと地元の常連が集まり、
来た道を懐かしみ過ぎ行く時を噛みしめるかのように
全員が酒を酌み交わしていた。


「最後は飲み会で終わらそうかと思ってね・・・」


と言いながら僕に焼酎の水割りを亭主は作ってくれた。


その水割りをチビチビと飲みながら
街の顔がまた1つなくなる寂しさも僕は飲み込んでいた。






20101225-1.jpg



12月20日 (月)  懐かしい場所


僕が育った街、青山に久しぶりに行ってきた。
自分の人生の大半を過ごし自分の素地を築いた街。
そして自分のを育ててくれた人たちにも会ってきた。


僕が生活をしていた頃に比べると不況の波を浴びて
閑散としている感は否めなかったが
店舗は変われど雰囲気は昔のままのように思える。
ショーウインドーに飾られる洋服のテイストもどこか懐かしい。
まだこのご時世に経営を成り立たせている昔ながらの店の佇まいに心が震えた。


向かった先はとあるビルの地下に位置するBAR。
行き始めたのが22歳の頃だったから、既に20年は通っている。
それでもまだ中堅の常連でしかない、そんな老舗の店である。


前回伺ったのがいつのことだか覚えていない、それだけ不義理をしていた。
かつては家に帰る前に必ず顔を出していた。
ワインを教えてもらった。
人との会話を教えてもらった。
モノの見方の角度を教えてもらった。
励まされるよりも怒られることのほうが多かったかもしれない。
もちろん笑うことも多かったけれど。


あまりに久しぶりだったので緊張したのだけれど、
電話で「柴田でーす。今から行ってもいいですか?」と尋ねたら間髪入れずに
「おいでよー!」と言われ、久しぶりに故郷に帰りました。


マスターからは「どなたでしたっけ」なんてからかわれたけれど
それもまた温かく、貴重な時を過ごすことが出来ました。


いっぱいワインを飲んで、たくさん話をして、
店にいた時間はそれほど長くはなかったのだけれど
やはり僕はこの店、そしてこの土地の人間なんだと回帰して店を出ることが出来ました。
そんな場所があるってありがたい。


「久しぶりに会ったら、柴田くん、大人になったねぇ」


いやいや失敗ばかりしてますが・・・。
そんな風に少し感じられるような何かを僕は発せたのだろうか。
少しくすぐったかったけれど嬉しかったです。


ときどき故郷には帰らなきゃな。
そんなことを考えながら足取り軽く帰宅の途に着きました。

20101220-1.jpg



前月 2010/12 翌月
SuMoTuWeThFrSa
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
過去記事閲覧
前月 前月の記事へ
- DiaryNote -